MS工法FAQ のバックアップ(No.3)
MS工法に関する、よくある質問と答えです。他にも質問したいことがあれば、お気軽に「お問合せ」ください。
設計に関する事項 †
溶射皮膜された部材にステンレス製のボルトを使用することは*1、問題になりますか。 †
■異種金属の接触で電蝕がおきますが、ステンレスは鋼であるため溶射皮膜との間に犠牲陽極作用が働き、ステンレスを保護します。ただし、環境(塩素混在)によりZn・Alの溶出が早くなる傾向があり、基本的には絶縁することが必要です。
亜鉛めっき上への粗面形成材の塗布は、付着力に問題はありますか。ブラストなどの処理が必要ですか。 †
■亜鉛めっき面に対し粗面形成材は問題なく付着します。ただし、亜鉛層が酸化して白錆*2が表面にあるなど粗面形成材の付着を阻害するものがある場合は、素地調整を行い、表面を清浄にする必要があります。また、白錆が生成している劣化亜鉛めっきは導電性がないため、表層の清掃だけでなく十分に研削して導電性の確認をしてください。
既設橋梁に適用する場合の注意点はなんですか。 †
■既存橋梁への施工条件には、次のようなことがあげられます。
- 既設鋼桁の素地調整ができること
- 作業環境内に引火するものがないこと
- コンプレッサーの稼動音が許容できること
- 作業空間は現場塗装作業空間があれば、ほぼ施工可能
■ただし、狭隘部など溶射ガンが十分に使えない箇所は、事前検討が必要です。
上塗り塗装を行った場合、塗替えのスパンは上塗り塗装の耐久年数で決定すると考えてよろしいのでしょうか。 †
■意匠上では、上塗りの耐久年限が塗替え周期となりますが、防食上は溶射皮膜の耐久性能に依存します。

施工に関する事項 †
粗面形成材塗布後から溶射までの間隔は、どの程度必要ですか。 †
■粗面形成材と常温金属溶射の最短時間は、1時間です。ただし、施工条件として粗面形成材が溶射熱で劣化しないように適正な施工条件の管理が必要です。適正な溶射品質を確保するために、標準仕様として24時間以上を提案いたします。
輸送時などにキズがついた場合の補修方法はありますか。 †
■損傷部をグラインダーなどで削り取り、再度、溶射を工程どおり施工すれば対応できます。
常温金属溶射にJIS方法とMS工法との施工に違いはありますか。 †
■従来工法(通称JIS工法)と常温金属溶射法の違いは、まず第一に素地鋼材と溶射金属を密着させるための粗面処理方法が異なります。従来工法では、ブラスト処理により溶射金属が適正に密着する粗さを鋼材自体の表面に付けます。常温金属溶射法では、溶射金属が適正に密着する表面粗さを粗面形成材を吹付けることによって鋼材表面に作ります。
■第二は、溶射材料となる亜鉛とアルミニウムなどの混合比率の違いです。従来工法では、亜鉛またはアルミニウム金属を単独で用いたり、Zn85・Al5合金*3やAl95・Mg5合金*4が使用されています。
■常温金属溶射法では、亜鉛とアルミニウムを質量%で72:28、容量%で50:50の比率のみを適用しています。これらの溶射金属を溶融させる熱源は、従来工法では電気(アーク)、ガスの両方が用いられ、常温金属溶射法では電気(アーク)のみを用います。また、溶射装置や溶射ガンの構造も利用する熱源や溶射材料によっても異なります。
常温溶射を行う上での安全管理項目を教えてください。 †
■粗面化処理と封孔処理工程では溶剤を使用します。溶射工程では溶融された金属が火花状で噴射され、火気使用と同様の状態が発生します。したがって、次のような安全対策が必要となります。

性能に関する事項 †
応力歪による変形性能は問題ないでしょうか。 †
■溶射温度が低いため、鋼材の熱歪はありません。皮膜自身に熱影響による収縮がないので変形は考える必要がありません。200万回の疲労試験を行った後、皮膜の密着性テストを行いましたが、初期状態と変わらないことを確認しています。
■溶射皮膜は多孔質ですが防食は犠牲陽極作用がありますので鋼を保護するため、微細な隙間は問題ないと考えます。また、微細な隙間(気孔)は封孔処理により埋められ膜としてはある程度の変形に耐えられますので問題ありません。
現在の重防食塗装(ふっ素)と比べ、常温溶射の利点と欠点を教えてください。 †
■鋼材にふっ素樹脂エナメル塗りを適用するには、素地調整としてブラスト処理を施した後、ジンクリッチプライマーを下塗りし、エポキシ樹脂プライマーおよびふっ素樹脂塗料用中塗り塗料を塗布し、上塗りにふっ素樹脂上塗り塗料を塗布します。ふっ素樹脂上塗り塗料は、現状の塗料用合成樹脂の中で最も帯候性に優れるため、耐久性が期待できる塗装仕上げですが、塗膜が素地に達するような損傷を受けると塗膜の損傷部周辺で素地の腐食が拡大します。
■一方、常温溶射は動力工具処理もしくはブラスト処理で素地調整し、粗面形成材を塗布して亜鉛とアルミニウムの擬合金溶射を施します。溶射皮膜は無機の金属皮膜であるため耐候性には優れています。溶射皮膜は損傷を受けても、周辺の溶射皮膜による犠牲陽極作用によって素地鋼材の腐食が周辺へ拡大することはありません。重防食塗装では環境との調和(着色)は容易です。また、溶射の上に塗装することによって飛来する塩分にも耐えられるようになり、耐久性が向上します。
■両者は、比較の対象ではなく補完しあうもの(適用の目的が異なる)と解釈するのが適切であると考えられます。
金属溶射と金属溶射プラス上塗り塗装との耐久性の差はいかがでしょう。 †
■金属溶射皮膜の上に塗装した場合、塗膜の保護作用により金属溶射皮膜の溶出速度が軽減され、防食性能の向上は期待できます。
■金属溶射プラス上塗りの耐久性は、上塗り塗装の耐久性により異なると考えています。
溶射できる金属は、亜鉛とアルミニウムだけですか。擬合金であれば他の材料もありそうですが。 †
■他の金属を使用することは可能です。しかし、現時点では溶射金属の性能と経済性などから亜鉛とアルミニウムの擬合金を推奨しています。今後の課題として経済性に優れ、かつ性能向上につながる溶射金属の検討を進めたいと考えます。
